だいだい書庫

長文を書きたかった時の観劇感想のための書庫です

アルヴィンとトーマスの物語を観て受け取ったもの

ミュージカル「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」の再演を観てきた。14日夜公演と15日昼公演。どちらも田代アルヴィン、平方トーマスの初演続投ペアの回。初演を観たとき、たった1回観ただけで、はまりにはまった大好きな舞台*1の再演である。14日夜は、アフタートークもあったので、なんか最終的に、田代さんと平方さんの軽快なトークにひたすら元気をもらって帰ってきたのだが、初演の後にずっと考えていたこの物語の内容がすとんと入って来たところがあったので、とりあえずその解釈のことを書きたい。無論、以下ネタバレをしている。あと、この物語の結末の受け取り方は、たぶん人によって結構違うと思う。私はアルヴィンの物語だと思っている節があるのだが、おそらくはどちらかというとこれはトーマスのための物語である。観た人には説明不要ですね。以下は、シーンやキャストがどうということではなくて、今回の物語を最後まで観たときに、ああこういうことなのかなあと思って、初演を観たときの私が救われたという話です。

 

 

納得できなくても、どんなに悔いる思いがあっても、失ったものは戻ってこない。一度口に出して放った言葉は元にはもどせない。

 

初めてこの作品を観たとき(初演の平方アルヴィン・田代トーマス回)、『トーマの心臓*2を思い出していた。

アルヴィンの死が作家トーマスに書く力を取り戻させたことが強く印象に残り、それが自分の生を代償にしてユーリに生きることを思い出させたトーマと重なって見えたのだ。

または、こうも思った。「僕が死んだら、トムが僕のための弔辞を書いてくれる」ということが、ひとりで生きるアルの支えになっていたのではないか。でもそれは、ほんのわずか均衡が崩れると、生きるためではない後押しになってしまうのではないか。どうかそれが、ひとりで真冬の凍った川にかかる橋へ出かけた理由ではありませんように、と。

 

この解釈と、最後の「雪の中の天使」*3で観た二人の優しい温かさは乖離していて、たぶん私はこの物語の何かどこかを誤読をしているのだろうと思っていたけれど、それでもずっとその気持ちが消えなかった。アルヴィンはどうして一人で行ってしまったんだろう。トーマスはこれからどうやって生きていくんだろう。

 

でも今回の再演で改めてこの舞台を観て、ああ、アルヴィンはただアルヴィンとして生きたんだなと思った。トムのためではなく、ただアルヴィンとして生きた。

トムとは仲良しで、一番の親友で、大好きだったけれど、お互いに全てを話せたわけではない。ついに言えないこともあった。アルヴィンの心の奥、人に見せないと決めた部分は誰にも触れられない。

その死に、「神の偉大な図書館」*4でのトムとの諍いは関係があったのかもしれないし、もしかするとなかったのかもしれない。わからないことを探すことはできない。真実にたどり着くことはできない。アルヴィンからその理由を話してもらうことはもうできない。それならば、トムはそれを想像するしかない。その想像は合っているかもしれないし、的外れなのかもしれない。何度も何度もアルヴィンを救えなかった自分を責め続けることになる。最後のやりとりをどんなに後悔しても、それをお互いに伝えることはできない。正解はないし、それを語りあえるはずだった相手はもういない。どんなに考えても、その想像に終わりはない。解き放たれることなんかない。

だから、その思いにとらわれるなと、僕はただ生きて死んだのだと、君が見た僕と君の物語をこそ覚えていてくれと、たぶんそう言うためにアルヴィンは、トムのための天使になってトムの前に現れたんだなと思った。

 

冒頭のシーン*5で、もういないはずのアルヴィンが現れてもトムは一切驚かないので、あの物語の中のアルヴィンは、最初から最後までトムの思い出の中のアルヴィンなのだろうと思っている。それでも、トムが覚えているアルヴィンの中に、アルヴィン自身の想いと姿もある。トムが自分の内側のアルヴィンと語り続けてついにたどり着いた結末(完結しない結末)の中に、本当のアルヴィンがトムに話したかったこと、見せたかったこともきっとちゃんと含まれている。「そこにはない物語を探さないで」というアルの言葉は、君の知っている僕が君にとっての僕の全てで、君に見せなかった僕の姿を想像して絶望なんかしないでくれということのように思えた。

 

きれいに整理された姿では終わらない物語の中で、「どうして」という思いはずっと残る。でも、その思いにとらわれすぎなくてもいい。残されたものはただ生きていくのだと、そう言われた気がした。

*1:2019年初演、大阪公演楽で平方アルヴィン、田代トーマスペアを観たのが出会い。その後、名古屋公演も観に行った

*2:萩尾望都作、1974年連載、1975年単行本初版刊行の漫画作品。言わずと知れた名作ですね。

*3:物語ラストシーンで二人で歌われる曲、再演のパンフレットによるとM37

*4:劇中で繰り返される、アルとトムが最後に会った場面。

*5:トムがアルのための弔辞を書き始めるシーン。