だいだい書庫

長文を書きたかった時の観劇感想のための書庫です

『スリル・ミー』初観劇(5/29配信)の感想を思いつくまま

『スリル・ミー』の初観劇でした。

配信になったけれど。

でも観れた。それが嬉しい。

 

2014年公演版のCDは浴びるほど聞いているし(特にいれまりペア)、今期の感想もなんとなく眺めてしまっていたので、全然まっさらな状態ではないのだが、でも本編を初めて観る経験は1回しかないので、全然まとまらないがとにかく書き残す。

 

そういえば、この配信直前、20分前くらいからこの先の公演紹介が色々と流れるのだが、3分前くらいからまでポスタービジュアルを背景にした待機画面で無音の状態になった。そして、会場風景が映ったら、すぐにピアノの音がなって始まるので、開幕直前の会場の息をものむ静寂と噂の空気感をちょびっとだけ体験できたように思う。


以下、ネタバレをめちゃくちゃ含みます。あと同じ舞台を観ても受け取るものは人それぞれ、みんな自分が観たものが真実。そういうことでひとつお願いします。

 

なお、この話の感想を書く場合、役名が「私」と「彼」なので、この感想を書いている本人であるところのもとさとの一人称・私が混在するとややこしいと思われることと、役名である「私」と「彼」の全部を「」でくくるのも煩わしいので、以下、役名の「私」と「彼」は基本的に「」なしで、もとさとの一人称は平仮名わたし、とさせていただきます(この注釈がいるのかは不明。あとうっかり自分の一人称も漢字変換しちゃってたら笑ってください)。

 

5/29 17時~配信  山崎彼・松岡私

さて、わたしがまっさらな状態で初めて触れたスリル・ミーの断片は、初演キャスト田代さんのCDに収録されている、にいまりペア(田代・新納)の「スリル・ミー」なのだが、全編通して見る初体験は今期の新ペアになった。
握りしめて待っていた大阪公演のチケットだと、都合により新ペアは諦めていたのだが、大阪公演全中止というこの状況になって観れたというのがまた不思議。

初見のペアが、自分にとってのスリル・ミーの親になるというのならば、わたしはこの山崎彼・松岡私の印象を抱えて生きていくのだろうか。いやでも、続けて観た成福ペアが、また全然、全っ然、印象が違ったので、本当にこの公演はペアによって関係性も着地点も観て受け取るものが全く違うのだなと。


このペア、彼は本気で私を疎んじているし、なんなら私を憎んでさえいるようにも見えた。
高校生同士のような、相手が自分を残してどこかいいところに行ってしまうのは絶対に許さないというような、若くて生々しいお互いへの執着。
また、どちらも頭脳明晰ではあるが、私の方が彼より秀でているのが明らかで、それが嫌で大学も大学院も違うところにいったんじゃないのか?彼?と思えた。
彼は私を揺さぶって思い通りにしているように見えるけれど、私の才能に嫉妬しているし、身体の関係を求めてくる私のことをたぶん本気で嫌がっている。私もそれは察していて、「殺す相手は俺が鬱陶しいと思っているやつ」のところで不安そうに「僕?」と聞くところ、かなり本気だったんじゃないのか。
一方で、彼は私を疎んじているけれど、その私(レイ)がいないと、あそこまでのことはできない。たとえそう言われても彼は絶対に認めないだろうけど。彼の衝動に、私の頭脳が乗ってしまったというか。

「超人たち」のところ、自分たちがしたことに興奮している彼と、おびえる私という構図だが、最後に山崎彼が松岡私を抱きすくめた時に、彼がはっきりと怯えたひきつった顔をするのが印象的だった。自分より怯えて怖がってくれるレイがいるから、彼は落ち着いたように見せかけられる。

ところで、ずっと思っていたのだが、君たち、契約書ってのは2通作って、お互いに1通ずつ持つのではないのか。それで対等な契約関係になるはずなのだが、相手が勝手に破棄しないという点について、彼は私に鉄壁の信頼があったということなのか?
これ、彼の方はそういうものと知らないんじゃないかもしかして……という不安があるが、私の方はわかっててやっている感じがすごい。
契約書を作るという行為に興奮しているのは彼の方だけど、その文書が自分をがんじがらめに縛ることに気が付いていないあたり、私が上手だなあと思った。
彼の方は、私が彼の要請にすみやかに従うことと言っているが、その後の私のターンでは、彼は私に対して「いかなる要請にも」従うとさりげなく付け加えているもんな。

このペア、序盤から、彼は私のことを心底疎んじているという印象だったのだが、護送車の一瞬、自分とレイが同じ判決を受けて、等しく囚人になったあの一瞬だけ、私に心が寄ったように見えた。
だから、あの時に、私が私の本心を語らなければ、私が自分の虚栄心を満たすために、彼に自分を認めさせるためにあんな告白をしなければ、あの時点から、彼は私を愛しはしなかったかもしれないけれど、少なくとも自分の心の中のいいところには入れてやったんじゃないかなという感じがした。
でも私は語り、彼より自分が勝っていたんだという事実を彼に言ってしまった。その瞬間に彼の心は永久に私から離れて、「君はこれから孤独だずっと」という言葉は、彼がもう私を愛さないという宣言のようにも聞こえた。

 

 

5/29 20時~ 成河私・福士彼

新ペアを観て、そうかスリル・ミーの私と彼の関係性ってこんなだったのか……と思っていたのがまた思いっきり覆った。
全然違うな?!全然違うんですね!?

事件前の2人の関係性の中では、私と彼が対等だなあという印象だった。

私は彼さえいればという感じだけどあまり執着心を見せすぎないように気を使っているし、彼の方も私がそばにいることを案外気に入っているという印象。彼の私に対する劣等感のようなものはみえない。
彼は、積極的に構ってやるそぶりは見せないけれど、自分を慕ってくるレイのことは結構気に入っているし、そばにいてやってもまあいいと思っている。そして、たまにキスしてやるぐらいの報酬はあげて構わないと思っている。他の者とは共有できない自分のやりたいことにもつきあってくれるから。
でも、契約書を交わしたことで、レイが自分の中にさらに踏み込んでくることを認めてしまったところが彼の失敗だったのかなあ。私が求めてくることを、彼の気分で拒めなくなってしまったから。

34年後の私の重さと声の低さ。年齢の割に老いすぎている感じがするのは、もう彼を失っているからなのか。

成河私、癇癪を起したような言動をするところがあるくせに、彼がそれにどういう反応を返すかちゃんと冷静に観察してるところが怖いなと思った。

「超人たち」の冒頭で駆込んできた時、私が取り乱さずにぼうっと立っているのが意外だったのだけど、自分が何かをしたという感情がまだ追い付いてきていないからなのかな。興奮して饒舌になる彼に揺さぶられて、塩酸の瓶をわたされてようやく我に返り、ロープを投げられて悲鳴を上げる。

 

成福ペアのラストをどう受け止めていいのか迷っている。
それなりに対等であった2人の関係を護送車の中で私が打ち砕いた後に、この彼はすっと感情が死んだように見えた。釈放後の私の元に現れた彼(の幻影)がレイと呼びかける声と表情にも一切感情がこもっていないように見えて、こんなものを私はずっと待っていたのかと思った。
この時に、彼が、誰かほかの囚人にシャワー室で刺されて死んだのは、彼の方が積極的にそう仕向けたのではないかと思えた。私と離れるすべはもう死ぬしかないから。レイが全てを仕組んでいたことを知った時、彼の私に対する感情は正も負も完全に消えてしまったんじゃないのか、ただ無だけが残ったんじゃないのか、と。刑務所の中で彼と一緒に暮らせることに喜びを見出した私の隣に、もう感情を完全に失っている彼がいることを考えてゾッとした。