だいだい書庫

長文を書きたかった時の観劇感想のための書庫です

『Defiled』8月9日17時~ライブ配信を観た

成河さん(ハリー)と千葉哲也さん(ブライアン)の千秋楽をライブ配信で観た。

すごく対話がしたかったハリーと、本当にハリーを説得したかったブライアンだったなあと思った。

これまで同ペア含めた数回を配信で観たのだが、ハリーとブライアンの関わり方にこんな印象を持ったのが初めてだった。最後の回まで、いろんな形をみせてくれたお二人だったなあ(いや実際には、8月1日公演分の配信はこれからなのでまだ新しいものを観られるのだが)。

 ということで、以下、この回のハリーとブライアンなら何とかなったんじゃないのか、ハリーは大事なものを壊さなくても済んだんじゃないかと強烈に思ったという話です。長いです。長いうえに、観たものから私はこう受け取ったというだけの話です(それを感想文という)。

 

実はまだ上げられていない分で、今までに観た各ハリーの印象と、それぞれのラストの結末を私はどう受け取ってきたのか、ということを長々と書いたものがあるのだが、それは捨て置いて、先にこれを書く。今日の成河ハリーと千葉ブライアンがみせてくれたものが何だったのかずっと考えている。

 

これまでに観た成河ハリー(7/1と7/18公演分の配信)については、全体を通してもう色んなことを諦めきっている人、という印象を持っていた。もはや何も期待していないから、見かけ上は極端に熱くもならないし、落ち着いていて、でもぎりぎりのところで誰かが味方になってくれたならばと思っているハリーなんじゃないかなと感じていた。すごく老成しているようにも見えるし、とても幼く見えるところもあった。

でもさ、今日(8/9)のハリーさ、全然、全っ然諦めてなかった。諦めて立てこもったのではなくて、そうすれば自分の要求を通すことができるかもしれないという思いをまだ捨ててない感じがはっきりとあった。できることなら助けてほしいって思っているとも感じた。そして、今日のこのブライアンなら、ハリーの選択を変えさせられるんじゃないのかって思った。そう強く思っただけに、ラストが一層辛かったのだけれども。

 

 これまで何回か観た中で、ハリーは本当に図書館を守るつもりだったのか、要求が通らなければ本当に全てを壊してしまうつもりだったのか、最初からそうだったのか、ブライアンと話したことが最後に背中を押したのか 、どっちなんだろうな、ということがわからないままでいる。しかも、これは、ペアによって俳優によって、受け取る印象が大きく異なってくる。舞台はその時その場で受け取ったものが全てなんだろうけれども。

前にも書いたが、私は、ハリーが言う「図書館を守る」という使命は、ここは自分のものだ(だから自分が壊してもいい)という気持ちとどこか混ざり合っているのではないかと思っていた。だから、ハリーが大事にしているもののことはとてもよくわかるが、その一方で「お前15年も働いていてなんでそうなるんだ」という気持ちがちょっとある(これは私自身の職業のせいかもしれない。ちなみに司書ではない)。

 なお、前に書いたものはこれ。

それから、これまでブライアンのことは、基本的に全然信用ならないよなあと思いながら観てきた。ブライアンは刑事で、ハリーを説得するのが仕事で、だから別に本心をハリーに話す必要は全くなくて、その場のハリーを説得できて外に出しさえすればそれで良いわけで。相手を納得させて止めさせないと、結局はまた元に戻ってしまうということを話す台詞もあるけど、それでもやっぱりブライアンは本心からハリーを心配するよりも、職務と自分自身の現実への気持ちの方をしっかり持っている人なんだろうなと思っていた。

 

そう思っていた。そうだったんだけれども、

今日観たハリーは、本当にただ「図書館を今ある姿で守りたい」が最初の気持ちだったんだなあと思った。俺が全部ぶっ飛ばしてやると言っていたけれど、本当にそうしたかったわけではなくて、権威のない彼が主張する場を得るためには、図書館そのものを盾にして立てこもる以外の方法を思いつけなかったんだなと。話を聞いてくれる人を心から求めていたようにも見えた。交渉はしないと言いながら、ブライアンとの対話が楽しそうだったもんな。ブライアンにちょっとずつ心を開いているのもありありとわかって、でもその分ブライアンの言葉*1に少しずつ絶望していっている感じもした。ハリーの立場からすると、ブライアンの交渉も、最後の提案もずれているとしか思えない。それでも最後の提案(カード目録はうちにくる)は、受け入れられないけれど、このブライアンからその言葉が出てきたことは嬉しかっただろうなと思った。

対して、今日観たブライアンも、本当にハリーを説得したいと考えているブライアンだなと思った。

今までに見たブライアンの中で(同じ千葉さんが演じていたブライアンも含めて)、一番優しいブライアンだった。ハリーの気持ちはさっぱり理解できないと思っているんだろうけど、それでもハリーに寄り添ったブライアンだったなあと。

私は今までは、ハリーは何においても、本が全てだと受け取っていた。

だから、ハリーが最後にブライアンに1冊の本を渡す意味は、自分が壊してしまうこの場所から、せめて1冊でも救い出そうということなのか、または自分はもうできない司書としての最後の仕事だということなのかと思っていた。ブライアンのためにではなく、本のために。

でも、今日は、本当にただブライアンに本を読んで欲しかった、昔読んだというその本をもう一度手に取って欲しかったのかなと感じた。今日のハリーがどこで最後の決断をしたのかはわからないけれど、ブライアンに本を渡したのは、ただそうしたかったからで、ブライアンへ感謝のしるしだったのかもしれないと思った。

今日のハリーを観ていると、この人が図書館を壊すなんてことするはずがないよと思えて、最後のシーンも、建物を壊すのではなく、もう終わりなのは自分の方で、ただ自分だけが死ぬつもりだったんじゃないのかとすら思えた(でも違っていたんだけど)。

 

Defiled』気高く・神聖なものが汚されること

このタイトルの意味するところは何だろう。ハリーは自分の守っていたそれが汚されたと思ったから行動したのだけど、図書館を、その場を、その建物を、そこにしかなかった1冊の本を愛していたであろうハリー以外の大勢の人たちにとっては、ハリーこそが神聖なものを汚したことになってしまう。これは私が、ハリー以外の大勢の人だから思うのだろうけれど。

あの話の中に、ハリーの同僚は出てこない。ハリーと同じように本を愛した同朋は出てこない。ハリーが1人でも味方を見つけられていたら良かったのに。あのブライアンと違う形で出会えていたら良かったのに。

*1:私はブライアンの交渉は、ハリーの逃げ道を切ってしまっている言葉が多いと思っている。ブライアンはそんなつもりはなかっただろうけれども